当院透析医療の理念・特徴
(1) 安全・安心・快適な透析施設を目指します。
近年、科学技術の進歩は目まぐるしいものがあり、自動車も自動運転車の開発競争が繰り広げられています。ヒューマンエラーを無くそうというのが理由の一つだと推測します。透析の現場においても、進歩と同時に複雑化する一方の医療技術の中で、ヒューマンエラー(医療事故・医療ミス)を無くすべく全国の透析施設が努力を重ねています。
当院も多用途透析装置(NIPRO社製NCV-3)を導入し、全自動化を図り、ヒューマンエラーを徹底的に排除するように努める一方で、透析医療チームを中心に、定期的に医療安全委員会を開催し、(自院・他院を問わず)様々なエラーを分析して、日々の医療(透析・一般外来とも)に役立てています。
毎年のように繰り返される災害に対しても、様々な対策、訓練の他、他の透析施設や行政等とも密接な連携を図っています。 (詳しくはこちら)
少しでも快適な透析生活が送れるように施設・設備などにも配慮しています。また、透析の送迎も行っています。 (詳しくはこちら)
送迎のドライバーには交通法規や制限速度の遵守、何よりも安全運転を強く求めております。患者さんから御意見が寄せられた場合は、速やかに状況を精査して改善策の意見交換をしています。
入院・外来を問わず透析食の提供にあたっては、食中毒を発生させないよう厳格な規定と多重のチェック体制を敷いております。また、そうした体制に漏れや不備がないかどうか定期的に潮来保健所の監査・指導も頂いています。
最新鋭の多用途透析装置 |
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当院では多用途透析装置(NIPRO社製NCV-3)を導入して、安全で快適な透析を提供致します。
*様々な病状の方に対応
・血液透析を中心とした設備の中で、血液濾過透析(HDF)対応装置5台、間歇補充型HDF対応装置34台に透析液清浄化を行って、様々な病状の方に合わせた治療が実施可能となりました。
*安全対策
・緊急時に停電が発生しても、清浄化された透析液で安全に自動返血の対応ができる機能が備わっています。 |
(2) 血液透析に特化し、シャントアクセス治療に専門性を持った「透析のかかりつけ医」を目指しています。
「腎代替医療」(血液透析・腹膜透析・腎臓移植)について、当院の規模やマンパワーを考慮して、広く浅くいろいろ行うよりも一定の分野に習熟する方針で血液透析とその関連医療に特化しています。しかし、「腎代替療法」を全て血液透析へと誘導するようなことはありません。腹膜透析や腎移植(先行的腎移植)を含めその方に最適な腎代替療法を一緒に選択してまいります。 (腎代替療法専門指導士在籍)
血液透析、腹膜透析、腎移植のいずれについても、今後も勉強や情報収集を続けてまいります。当院は皆様の身近にあって、透析に関することなら何でも気軽に相談できる「透析のかかりつけ医」でありたいと考えています。
また、別掲のように、当院は内シャントアクセス加療に力を注いでおり、当院のみならず鹿行地域の透析患者さんの役に立てるよう努力を重ねてまいります。
【参考資料】 全国及び茨城県内の透析者数の内訳(比率と人数)
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血液透析 |
腹膜透析 |
合計 |
全国 |
97.0%(336,943人) |
3.0%(10,531人) |
100%(347,474人) |
茨城県 |
99.1%(8,339人) |
0.9%(78人) |
100%(8,417人) |
※日本透析医学会 図説「わが国の慢性透析療法の現況(2022年12月31日現在)」より
(3) 透析医療に長年従事してきた医師を中心とした各専門職による透析医療チームが、透析を受ける皆様を支えます。 (詳しくはこちら。)
▲上に戻る 専門治療
(4) 保存期腎不全〜透析導入までの全てを自施設で行っています。
当院は全室療養型病床ですが、透析医療は厚生労働省の定める診療報酬での医療区分2に該当しており、慢性腎不全患者さんの通常の入院治療はできますので、透析導入もごく普通に行っています。
透析導入前の「保存期腎不全」の外来通院、そして内シャント造設手術および透析導入、維持透析までの加療を一貫として当院で行うことが可能です。
(5) 内シャント造設手術を自施設で行っています。
当院院長の前田伸樹医師は、以前、千葉社会保険病院(現:JCHO千葉病院)に勤務させて頂き、シャント手術・透析患者の外科手術の名手として名高い室谷典義先生の下で、丸3年間、様々な事を教えて頂きました。その後も室谷先生は長年にわたって当院へ非常勤でいらして下さり、当院の前田医師は、長年御指導を頂きました。学ばせて頂いた多くの技術や考え方を日々の手術に生かしつつ、更なる技術の向上に励んでいます。安定した内シャント無しで日々の安定した維持透析は行えません。内シャントの善し悪しで透析生活は大きく変わってきてしまいますので、今後も様々な工夫や努力を重ねて行きたいと思います。
(6) PTA治療(医療用バルーンやステントを用いた血管内カテーテル手術)を自施設で行っています。
近年、日本では、透析導入年齢の上昇、長期透析の方の増加、基礎疾患としての糖尿病が多くなっていること等を反映して、血管状態の悪い方が増加しており、内シャントなどのバスキュラーアクセス(透析をする血管)確保に苦労することが頻繁に見られます。
一方で、近年、日本の透析医療の進歩は目覚ましいものがあり、PTA治療(医療用バルーンやステントを用いた血管内カテーテル手術)を行うことによって、シャントが詰まってしまう前に血管を閉塞から助け出すことが出来るようになってきました。PTA治療がうまく行けば、シャントの再手術を行わないで済むようになります。今ある内シャントをできるだけ大切に使って行くという意味でも、シャント手術と相互補完するものとしても、日本では近年、実施件数が増加しています。当院も積極的にPTA治療に取組んでいます。
【PTA治療の長所】 |
治療がうまくいけば、シャントの再手術(外科的再建手術)をしないで済みます。 (新たな傷ができません。手術のために入院する必要がありません。) |
治療がうまくいけば、同じ血管(シャント)を補修しながら何度も使っていくことができます。 |
治療の成功率は、全国平均もかなり高い⇒健康保険の適応もされており(つまりは厚生労働省も認めている治療法であり)、医学的にも確立された治療法です。「PTA」の初期成功率は学会報告により多少の差はありますが97〜80%とされ、当院でも初期成功率は 95%を優に超えます。(「初期成功」とは、単に「PTA治療実施後の次の日の透析がいつも通りの血流量でトラブルなく実施できた」と定義して数えています。) |
【PTA治療の短所】 |
皮膚の局所麻酔は行いますが、バルーン(治療用の風船)を血管内で広げ、狭窄部位を拡張する時に痛みが生じます(通常は数秒程度)。 バルーンによる拡張がうまくいけばシャントの再手術や入院をしなくて済みますし、拡張時の痛みは数秒程度のことが多いので、仕方なく我慢して頂く事もあります。これは多少の例外はあるものの、全国のPTA施行施設で、ほぼ同様の状況です。
100%完全に無痛とはいかないものの、拡張の際の痛みを少しでも減らすために、PTAを行う施設では様々な工夫が行われています。局所麻酔薬の量を増やしたり、場合によっては静脈内麻酔薬を投与して眠って頂いてから行う施設もあります。 麻酔薬の副作用や呼吸抑制のリスクもあるので、患者さんごとに慎重な検討が必要になります。(当院でも局所麻酔や静脈麻酔を行ってから、拡張術を行っています。ただし、静脈麻酔を使用した際は、治療後もしばらく、ぼーっとする感覚が残る事がありますので、御自分ですぐに車を運転して帰宅して頂く訳にはまいりません。静脈麻酔使用後の帰宅の際は御家族の送迎やタクシーを利用頂くか、又は一泊入院を御検討下さい。)
当院では他の日本アクセス研究会参加施設と情報交換を定期的に行って、疼痛対策に積極的な工夫を重ねています。
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バルーンが裂けたり、拡張した部位に出血が生じ、血腫を形成することがまれにあります。 |
血腫ができた場合、ただでさえ流れの悪かったシャント血管を更に悪化させることがあります。 |
いったん拡張に成功した血管でも、また月日の経過と共に、再度、狭窄を生じてくることがあります。 |
どこの透析施設でも実施可能なわけではありません。
⇒血管造影(または血管超音波)の可能な医療設備を整備し、PTA治療に習熟した専門医・医療従事者を育成して行く必要があります。 |
造影剤に対してアレルギーが出ることもまれにあります。
(血管超音波のみでのPTA治療の場合は、造影剤を使用しません。)
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上記の長所・短所を総合的に勘案して、PTA治療を選択される患者さんが多数派となってきています。 (注:治療法の押し売りは致しませんので、PTAを選択なさらない場合は、シャントが使えなくなるまで待って、再手術・・・という選択肢もあると思います。)
血管カテーテルについての詳しい説明はこちらをご覧ください。
(7) 当院は日本透析医学会認定透析専門医および VA 血管内治療認定医が常勤している鹿行地域唯一の透析施設です。また、同時に日本透析医学会認定教育関連施設でもあります。
そうした状況を考え、将来の透析医療を担うスタッフの育成にも責任を果たします。
令和6(2024)年8月末現在: 慢性腎臓療養指導看護師(DLN) 2名、透析技術認定士12名
腎臓病療養指導士 1名、腎代替療法専門指導士 1名、日本糖尿病療養指導士(CDEJ) 1名
設備・施設に関すること
(8) 透析ベッドに一台ずつアーム式の液晶テレビを設置しています。
無料でご覧いただけます。
(9) 透析へ通院困難な方に、当院専用車両による無料送迎サービスを行っています。
(車椅子でも送迎車の御利用が可能です。)
片道だけの御利用も承っております。送迎コースなど詳しい事はお問い合わせ下さい。
(10) 患者さんの急な御都合や、病状の変化等の緊急時にも対応できるように、透析ベッド及び入院病室とも、常時一定数以上の空床を確保するように努めています。
(11) 御自宅からの送迎よりも、長期入院での透析継続を希望なさる方のために療養型病床を設置しています。(透析患者さんを、日頃、介護・送迎なさっている御家族が旅行・出張等の所用の際に、短期間だけ、入院して頂く事も可能です。)
当院は、療養型病床を36床設置しています。病床の目的は主に5つあります。
- 高齢や合併症などで自力での通院が困難になった方のために長期受け入れを図る。
- 透析の導入や、透析に関連する専門加療(内シャント造設手術)のほか、 軽症の合併症加療を行う。(数日程度を想定)
- 別記のPTA治療(バルーンによる内シャント血管の拡張手術)による疼痛を緩和するために、鎮静剤で完全に眠らせた状態で治療を行った場合。 (局所麻酔のみでPTA治療を行った場合は、日帰り手術が原則です。)
- (透析の方に限らず)糖尿病患者さんの血糖コントロールやインスリン導入。(インスリン導入は通常は外来で行っていますが、高齢者などの場合は御希望により入院で導入しています。)
- 御家族による送迎や当院送迎車の利用により、日頃は通院透析をしている患者さんの御家族が、 冠婚葬祭・出張・旅行などで御自宅を留守にする場合に、短期的な入院も承ります。(空床のある場合に限ります)
また、単に、御家族の介護疲れを軽減する目的でも御利用下さい。
▲上に戻る 合併症治療と地域連携
(12) 様々な合併症治療について、地域の中核病院や地域外基幹病院との役割分担を進めます。
日本全体の総論で言えば、医療機能の分化・連携を推進する背景には、比較的都市部にあってさえ、少なくない公的病院が多機能かつ高機能病院を目指しながら、医師不足や経営状態悪化のため機能不全に陥っていることがあります。また日本経済の先行き不安の強い状況下にあって、昨今の医療費削減の圧力の中で医療の質を保って行くために、ことに都市部において各々の病院が機能分化し相互に補っていくというのは自然な流れと思います。
しかし、鹿行地域には入院ベッド500床超の大規模基幹病院は存在せず、また公的病院の数にも限りがありますので、そうした都市部の連携案をそのまま適応できる状況ではありません。鹿行地域のどこの透析施設でも、単独では自己完結的に全てをまかなうのはほぼ不可能な状況となっています。
また、本来でしたらそうした中核病院を補完・下支えするべき小規模専門病院である当院自身も、保有する入院ベッドの全てが療養病床であり、(急性期医療は不可能ではないものの)かなり制限のある状況ですので、中等症以上の入院患者さんの受入れは困難な状況となっています。その結果、重症度の高い場合は、鹿行地域外の大規模基幹病院にお願いさせて頂いていることが大半です。
こうしたことから、当院は、鹿行地域全体とその周辺地域を1つの大きな病棟として考え、 鹿行地域内の中核病院や域外の大規模基幹病院とのよりよい連携のもとで、重篤な合併症の方々の救急医療確保を目指します。また、当院も初期治療等、可能なものはその一助になれるように努めます。
⇒軽症の場合は、当院にて初期診察
⇒中等症の場合は、鹿行地域内の中核病院(3ヶ所)へ
⇒上記の中核病院が受け入れ困難の場合や、
重症度が高い場合は鹿行地域外の大規模基幹病院へ
(転院先については患者さんや御家族の希望を最大限尊重致します。)
(13) 基幹病院へ救急搬送の際、最新の診療情報・透析情報・検査データ等を搬送先の医療機関へ、深夜であっても30分以内に情報提供出来るような体制を24時間・365日整備しています。
当院の休日・夜間診療体制は軽症な方に限ります。例えば、風邪や急性胃腸炎などです。しかし、意識障害、胸痛、呼吸困難、吐下血、交通外傷など重篤な場合は、当院に搬送されて、さらに次の救急受け入れ先を探している間に病状がどんどん悪化したり、度々の救急搬送に貴重な時間を浪費する事になり、助かる命も助からない事になりかねません。急病の際は、いったん当院へ電話で御連絡を頂き、院長(又は当直医)が、重篤と判断した場合は、患者さん(又は御家族)に直接119番で救急を要請する事を指示する事もあります。
その際は、御本人又は御家族から、受入れ先の医療機関名を携帯電話等で当院へ御連絡頂ければ、どんな深夜であっても夜勤看護師が電話対応し、院長や当直医へ速報する体制を整備しています。(御自宅の位置にもよりますが)、鹿行域外の基幹病院への搬送時間は40分〜50分くらいかかる事が多く、通常は、救急車の到着前に、皆様の様々な診療情報をFAX送信や電話等で連絡する事ができます。
御連絡を頂いてからFAX送信させて頂くまでは、おおよその目安として30分以内です。 (受け入れ先が鹿行エリア内の3ヶ所の中核病院の場合など)自宅が搬送先の病院に近くて当院からの書類送信の方が遅れそうな場合は、院長(又は当直医)が、直接搬送先の医師に電話連絡致します。(搬送先について、当院への電話連絡を入れて頂けない場合は、それらが全く出来ませんので御注意下さい。)
もっとも、一人暮らしである方が意識障害で搬送される場合などは、当院へ連絡のしようがないと思います。そういう時に備えて、クレジットカードサイズの「透析情報カード」を全患者さんにお渡ししてあり、そこには透析条件、ドライウエイトなど当面の緊急情報が記載されており、適宜アップデート(更新)しています。
また、医療連携を取って頂いている地域の基幹病院には当院が前記のような緊急連絡体制を取っていることはお伝えしてあります。搬送後の病状が悪く当院からの医療情報が緊急で必要な場合、当院で透析を受けているということがわかれば、深夜や休日に先方の病院からこちらへ緊急連絡が入っても直ちに対応が可能です。
(14) 災害時対策・他の透析施設や行政との連携
当地域は東日本大震災において、被災地でした。また、近年、茨城県内では竜巻被害や大規模な水害がありました。平成28 (2016)年には熊本・大分に地震が続きました。日本では毎年様々な災害が起こります。そうした災害時でも、透析医療は中断できません。
当院は、いつ起こるかわからない災害に備えて様々な対策を取っています。
●当院作成の防災マニュアルを全ての方に配布させて頂いています。
●患者さんにもできるだけ御参加を頂いて、定期的な防災訓練・消火訓練・避難訓練を行っています。
●NTTの災害用伝言ダイヤル(171番)を用いた当院と透析患者さんとの間の緊急連絡体制を整備していますので、実際にその利用訓練も定期的に行っております。
東日本大震災の際は、当院でも他院の透析患者さんの支援透析をさせて頂きましたが、逆に、当院が大地震・竜巻などの激甚災害で倒壊・使用不能になる事も想定が必要と考えています。そうした際にも皆様の透析医療が中断しないように、近隣の透析施設や行政との連携にも力を入れています。
また、茨城県の全ての透析施設は、「茨城県透析談話会」が中心となって、緊急時のネットワーク整備を常日頃から行っており、非常時にも切れ目ない透析医療を供給できるよう各施設が協力しています。
▲上に戻る その他
(15) 日本アフェレシス学会からも関連施設の認定を頂いており、血漿交換や顆粒球吸着療法(G-CAP)等の特殊な血液浄化療法を行っています。
血液透析(HD)や血液濾過透析(HDF)以外にも二重膜濾過血漿交換療法(DFPP)、顆粒球吸着療法(G-CAP)等の特殊な血液浄化療法を行っています。
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顆粒球吸着療法とは、左の写真にある吸着器を用います。
血液を一旦、体外へ取出し、白血球の中の顆粒球を選択的に吸着する膜を通し、血液を体内に戻すという治療です。
潰瘍性大腸炎や、Crohn病といった炎症性腸疾患が治療対象となります。 |
(16) 腎移植の普及促進に積極的に取組んでいます。
透析導入後、腎臓移植を希望する方には、御相談や様々な支援、移植登録を積極的に行います。また保存期腎不全(透析導入前)であっても生体腎移植(先行的腎移植)を希望される方には必要なサポート・アドバイスをさせて頂きます。
当院で透析を受けていた方が、この10年間余で10人以上の方が腎移植手術を受けていらっしゃいます。(膵腎同時移植を含みます。)
平成22(2010)年より改正臓器移植法が施行され、家族の同意での脳死(献腎)移植に関する報道が時に見られるようになりました。しかし諸外国と比べると、献腎移植はまだまだ充分な広がりを見せていません。その一方で、透析開始が間近に迫った患者さんに対する先行的腎移植は日本でも徐々に増えてきています。当院でもこれまでに先行的腎移植を選択なさった方がいらっしゃいました。
今後も当院は腎移植の普及に関して、微力ではあってもお役に立てることがあれば積極的に協力を継続してまいります。
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透析医療に関する理念
(17) 毎日の積み重ねが患者さんの人生を大きく変えるのだという重みを忘れません。
日本の透析医療は世界一の水準を誇ります。諸先輩方の長年の御尽力のおかげで、日本全国どこで透析を受けても、標準的な透析が受けられるようになっています。
一方で医学の進歩に伴って、維持透析を10年、20年以上の長期に渡って受ける方が多くなってきています。私達はその事実をいつも重く受け止めています。我々が1年間に提供させて頂く透析医療は、週3回透析の方なら1年間で156回になります。5年間で780回、10年間で1560回の透析を受けることになります。どういった管理・アドバイスを受けるかによって、患者さんの寿命、合併症の程度や頻度、人生の質、御家族の負担が大きく変わってくるのは当然だと思います。医療者にまかせ放しで自己管理をおろそかにしても決して良い結果は生まれません。患者さん自身も積極的に自己管理に取組んで下さい。我々はそういう透析医療の基本に対して忠実に、なおかつ地道に日々の医療にあたります。
(18) 透析は「医療」が基本だということを忘れません。
長い期間、透析を受ける方も増えているのですから、送迎などのサービスやテレビ等のアメニティもそれなりの意味を持つと思います。当院もそうした努力を行っています。しかし、皆様の大切な命をお預かりするのですから、やはり何よりも良質な透析医療の提供にエネルギーと時間、資金、人的資源を振り向けることを重視します。
(19) 医療者自身も幸せを感じられるような病院になりたいです。
(患者さんの将来を守るためにも職員を幸せにします。)
生涯に渡って透析を続けねばならない方々が実に大変で過酷であることは論を待たないのですが、それを支え続ける透析医や透析医療従事者も同じように過酷な環境にあることを改めて知って頂きたく思います。
「忙しい」とは「心を亡くす」と書きます。忙し過ぎる現場は、医療事故やミスの発生リスクも上がります。医師や看護師も疲弊しきって、本来ならその人が心に持っていたはずの優しさや誇りまで奪ってしまうこともままあるかもしれません。
透析医療に長年多大な貢献をなさってきた一方で、文学に関する深い造詣を表す数々の著作でも知られる故・大平整爾先生(日本透析医学会元理事長)の一文を引用させて頂きます。
ギリシャの医師シメノスは透析療法は” psychodialysis”であるべきだと断じ、「患者の血液の汚れはHDで浄化し、彼らの心の澱みは私どもスタッフの命・心で清めるのだ」と述べているのを傾聴したいと痛感します。
(中略)
私どもが生き生きとした明るく建設的な態度を取り続ければ、必ずや私どもの思いの幾分かが患者さん達の心へ投影されるものだと信じます。そのためには私ども自身が、幸せ感を持つように努力することが大切になります。
大平先生のこの御意見に深く賛同します。
日々質の高い透析医療を提供し、将来に渡って鹿行地域の透析医療を守り続けるためには、患者さんを支え続ける医療者自身の健康や家庭も等しく守らなければならないと当院は考えています。
(20) 犯罪や迷惑行為から患者さんと医療従事者を守ります。
病院内や駐車場での置引き・窃盗などの犯罪に対してはもちろんのこと、患者さん及び医療従事者を、暴言や暴力、威圧行為、中傷、セクハラ等の違法行為・迷惑行為等から守り、明るく安心して受診できる病院(職場)を作ります。病院内、駐車場などには常時録画機能を有する高性能の防犯カメラの設置を行い、警察への早急な通報・相談体制を整備しています。我々は受診者の皆さんや医療従事者の安全も可能な限り守る必要があると考えています。
(21) 「患者様」「●●様」とはお呼びしません。
外部からの規則により、「患者様」とか「山田様」「田中様」等の呼称を義務づけられている医療機関が少なくありません。(これはルールなので仕方ないですが・・・)
しかし、「様」と呼ばなければならない立場と、「様」と呼ばれる立場が対等であるとは思えません。
一方、透析施設はちょっと事情が異なります。5年、10年、20年・・・と透析を続けて行くのですから、患者さんと透析医師・職員は、立場こそ違っても、「戦友」「仲間」のようなものだといつも考えています。そんな間柄で、「様」とは、とても使用する(させる)気にはなれないのです。
(仕事上の緊張感は緩めてはなりませんが・・・)、患者さん同士や、患者さんと職員の間がいつもフレンドリーで、和気あいあいとしたものであって欲しいと考えています。お互いに肩を組んで、視線は少し上を見ている・・・というイメージを抱いて日々の医療を行っております。)
当院では、患者さんとの間に自ら壁を作る事のないように、職員に対して、口頭では「患者様」「●●様」と言う事を禁じております。(書面等の場合は「茨城太郎様」とか「茨城花子様」といったように普通に「様」を使用しています。) 皆様の御理解をお願い申し上げます。
(22) 鹿行・東総地域に暮らす皆様に少しでも笑顔を増やせるような透析医療に心がけます。
東関東自動車道や圏央道といった高速道路のおかげで、首都圏からのアクセスは良好なはずの鹿行地域ですが、なぜか医療に関しては地域住民の皆様が安心して暮らせる水準にはまだまだ至っておりません。当院も皆で努力を重ねておりますが、上述のように理想からは程遠い状況です。
鹿行には広大な海も川も湖も森もあり、豊かな農産物や海産物といった自然の恵みに溢れています。脆弱な公共交通網、充分ではない医療体制、徐々に進む高齢化、独居老人や老々介護の増加などといった様々な難問を抱える中で、鹿行を愛し、生涯をここで暮らしたいと考えていらっしゃる方が大多数と思います。地域住民や医療従事者が皆で知恵を出し合ったり支えあったりすれば、ちょっとの工夫と勇気で、今よりも少しずつ暮らしやすくなって行くのではないでしょうか。
誰だって透析など受けたくはないと思います。しかし、どうしても受けなくてはいけないのなら、せめてつらい事は少なく、笑顔になれる事が多い方が良いと思います。透析生活には確かに様々な制約があります。しかし、画一的な指示・指導を行い、節制を説くだけでは、全く意味をなしません。
透析を受ける皆様の様々な心配を少しでも減らせるように・・・・・また、透析生活の中で、患者さん同士や職員・医師達との毎日の交流の中で、皆様に笑顔が少しでも増えるように・・・・・当院の理念とする「安全・安心・快適な透析医療」を提供していきたいと日々考えております。
更新日: 2024年 9月28日
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